「サイバー犯罪」タグアーカイブ

2010-07
02
14:28:34
とある件 #librahack に関連しつつ一般論を再度電話して聞いてみた


最初に再度強調しておきますが、これは「とある件 #librahack」に関連しつつも、とある関係先に再度「個人的に」「一般論」として考え方を確認してみた話です。
あくまで、 最近起きた具体的な事案についての具体的な話ではありません。
再度電話して確認したところ「あの書き方では県警が特定の事件について語ったと読まれてしまう」「あの事件について具体的に話を聞いたとの公表の仕方であれば一切お話しできない」「具体的事案についてであれば取材なので私の立場ではお話しできない。別途書面で質問を」と言われ、僕自身は「個人的にお聞きした」「一般論」と強調して書いたたつもりですがどうやら幾つかほかにも電凸があった模様もあり困惑されていた雰囲気もあり、具体的な事案情報のように捉えられるのを大変懸念されていたので、再度ここに強調してお伝えするものです。
ということで先方にお約束もしたので、ぜひあの事件からは離れて一般論的な話として、高所要所よりお読み下さい。
お話しをお聞きしたのは前回と同じ所属部署の同じ方です。という事情があったにも関わらず再び非常に真摯に長時間お話し頂きまして、大変感謝致します。ありがとうございました。

さて再度電話してお聞きしたかったのは皆さんからも少し疑問の声が上がっていた「偽計業務妨害罪には故意が必要とは書かれていない」という部分について。
基本的に議論ではなくお話しをお伺いするという姿勢で臨んでいたのと、その際僕の勘違いだっけ?などとも思ったので当時はそのままスルーしてしまったのですが、いろいろその後の議論も読み自分でも考えるにやはりここだけは聞いておかないと重要なポイントなのではないかと思ったので、本当はもうかけるつもりは無かったのですが、もう一度だけ電話して確認してみました。
ポイントを羅列しますが、あくまで僕自身の捉え方の部分でしか無いところもあるかと思いますので、その点もご注意下さい。

  • 故意犯規定(刑法38条1項)では、あくまで本当に故意であるかどうかは外形上は分からない。少なくとも偽計業務妨害罪が構成要件上成立している(しているように外形上見える)のならば取り調べたり、または裁判などで証拠調べをしてその上で故意であるかが判断される
  • 考えて頂きたいのは、これまでネットの中では通用してきたかも知れないが、今日においてはネットにそれほど通じていない人々もネットへ参加してきているということだ。ネット内で起きた問題や困り事を解決する手段が現時点で何か明確に用意されていますか?(「明確には無いと思いますね」と返答)そういう人たちがネットで自力で解決するのは困難なことだ。であればそこはやはり警察なりが被害者を助けなければならない。実際被害が出ていて困っている人々がいることは理解して欲しい。ネットに詳しい人だけが分かればいい問題ではない
  • もし具体的に判断基準を知りたいと言うことであっても、具体的事案についてはお話しできないから示すことはできない。より深い判断を聞きたいと言うことであれば、法務省なり警視庁なりに問い合わせて欲しいが、事件は個別のもので一つとして同じものはない。(今回はファーストケース故にその事案の事実を知らないと分からないがファーストケース故に一般論では今後のことは何も言えないと言うことになりますよね、との問いに対し)そうなる。また(元被疑者の方が)情報を公開されていると言うことだが(こちらからお伝えした)それ以上の情報も当然警察はお話しすることはない。関係者以外の方にお話しすることは出来ない。なので今後どのような事案について問題になるかも述べるのは難しい。
  • (これまでのネットでのルールや慣習などが無かったことになるのでは、との問いに対して)慣習は法ではない。また実際そうしたルールが完全にネットに参加してくる人たちに周知され理解されているかも問題だ。警察としては被害が出ているのならば、また他に救済策がないのであれば捜査しないといけない(多少意訳入っています)。もっとも立場の弱い人を基準に動く
  • 例えれば警察は風邪薬のようなものだ。つまり事件が起こってから作用するに過ぎない。それ以前に未然に防ぐことをぜひ徹底して問題にならないようにして欲しい
  • (しかしそれではあらゆるサイトに対してアクセス時(ブラウザアクセス、クロール関係なく)に了解を取り付けないといけなくなる。外形上ではどこまでアクセスが許されるかは分からない、という問いに対して)ネットをする際に常に確認しなければならないと利用を阻害するものではない。例えばYahooなどの大きなサイトへアクセスする際にそうした問題が起きる/起きたことがありますか (今後のことは何があるか分からないし、様々なサイトがあり外形上判断の付くことではないと返答) 常にネットに理解の深い人だけが参加しているのではないという理解をして欲しい。その上でエラーが出たら確認を怠らないなどの処置をして欲しいし、エラーが出続けているのにリロードを常識外れに繰り返すなどの利用は普通はしないと思う

色々話が飛んだり混迷もしたので物足りない部分や不明な部分もあると思いますが、以上でしょうか。

議論に先入観を植え付けたりこの立場からリードもしたくないので極力ここでは意見は差し控えたいと思いつつ、一点だけ。
会話して感じたのは、警察の立場でぶれていないのは「被害が出ており法律上立件が求められているのならば動くのは当然」との感触が端々に感じられたことです。会話でも一部出たのですが、「罪刑法定主義」とのことです。
一般論として(他の悪質な例で考えれば)当然でありますし、裏返せば「ネット特有とされるルールや習慣は新規参入者やネットに詳しくないとされるものに受け入れられていない・共通認識されていないという主張に対しどう抗弁していくのか」「今回の件は偽計業務妨害罪にそぐわないのだとすればどう法整備や法実務に反映していくべきか」「ネットのルールや事実をどう法的根拠付けしていくべきか(それにより、条件によって阻却事由を構成していくか)」という点かと感じます。 つまり条件が揃ってしまえば警察が動き出すのはある意味当然(当然法実務での阻却要因はあり得るとしても)という考え方かなと感じました。
少なくとも「毎秒何回までならいいのか」「業者のシステム構築能力が悪い」「業者が技術的にDoSなどではないと判断すべきだった」 論ではない(それはそれとして別の議論としてはあり得ると思います)のだと思います。上記からもそうしたことは仮に証明・釈明されても「この論法の中では」全く役に立たないことは理解しておくべきかと思います。
一般論として紐解いても、@librahackさんが20日かかっても抗弁し切れなかった要因が見え隠れするようにも感じます。

以上です。
因みに僕自身は自分なりの議論ポイントの方向性は見いだせたので、もう電話はこれ以上しません(多分)。会話内容についての疑問・質問についてはある程度お受けすると思いますが、より深い部分についてはぜひ各々で問い合わせするなどそれぞれでの出来うる範囲での行動をお勧めします。

(追記 19:55) 誤読されうる箇所の表現を何カ所か修正。ペースは変えていません

2010-06
24
17:32:55
岡崎市立中央図書館事件 #librahack について愛知県警に電話して聞いてみた


連日Twitterでは #librahack ハッシュが大盛況だが、個人的には事実関係でよく分からないことも多く明白にしたいことではあったので、直接愛知県警に電話して事情を聞いてみました。岡崎署ではなく愛知県警なのは、そちらが事件捜査の主体的な役割を担っただろうと判断したからです。

対応して頂いたのは生活経済課の方。お名前は出しません。愛知県警ではこの課がサイバー犯罪を担当しているそうです。
担当して頂いた方は割と若めで理路整然と話したいクールなタイプ。多少警戒されて話されていたのが印象によく残っています。
ネットでもこの聞き取り結果を公表したいともお話ししましたが、「あくまであなた個人に対して個人としてご回答しただけでそれ以上でもそれ以下でもない。これはあくまで一般論としてのお話しです(注: 個別事案について漏らしたわけではない、という意味かな?)。話した事実関係をお話し頂くことはあなたの責任範疇の話で別に問題ない。但しそれを元に『じゃあこういう抜け穴もあるのでは』と書いたらそれは教唆ですから」とも忠告してくれました。そのつもりでお読み下さい。
フレンドリーとは言いませんが(住所・氏名も聞かれたし(笑) 単に記録かも知れないけど一種のプレッシャーでもあるのかも知れないですね)、誠実に対応して頂けたと思います。ありがとうございました。

聞き取った事実関係のみ羅列します。

  • 警察の考え方として、立件したのは事実として岡崎市立中央図書館のWEBサイトがその行為により閲覧不能に陥り他の利用者が利用できない状態に陥っているから。警察は常に被害者の立場での問題に対処している
  • (クロールという行為自体は世間ではよくあるプログラムでありまた作成者の立場からはどのような被害が出ているのか分からない、との質問に対して) それはネットに詳しい方の一方的な見解に過ぎない。ぜひ図書館側の立場で考えて欲しい。不用意にプログラムを走らされて利用が不可能になった図書館側としては非常に困る事態に陥っている。作成者側の事情や立場に立つのではなく、警察は被害者側の立場で対応する。これはネット上でどうというよりも、実際に現実世界で被害を受けた方々がいることが重要視される
  • そもそも図書館側は大量のアクセスを想定してサービスしていない。そこにこのようなプログラムを走らせて機能不全に陥らせたことが重視されるべきである。そういう利用をしたいのであれば、まず図書館側に電話やメールで連絡して了解を取り付けるべきであった
  • (“故意”をどのように認定したかについて) 捜査上の秘密なので言えない。
  • (検察の起訴判断も終わり事件としては終結したのでは、という質問に対して) 明白な故意という判定は難しいはずだ。それは心の中で本当は何を考えいていたかはその人にしか分からない。我々は周辺の様々な状況から判断する。そして例えば裁判で様々な証拠から裁判官の心証として故意は認定される。また偽計業務妨害罪の法文上は故意が必要とは書かれていない。我々は法文でどうなのかを重視して判断する。(判例上は?という質問に対して) それはそちらで勝手に調べて下さい。もちろん判例も考慮する。
  • ストーカー規制法違反事案を想像して欲しい。加害者にどのような意図があろうとも被害者を守らなければならない。それと同じように警察は被害者をまず一番に考えて動く。
  • (『基本的な考え方はわかった。しかし個人意見として、インターネットでは例えばWEBサイトは常にオープンな接続が前提とされており、今回もスタートは全く同じだ。しかし逮捕に至った。例えば道行く人を阻んでいきなり迷惑をかけたのとは異なる』との問いに対して) おっしゃる意味は理解するが実際に被害者が出ていることが重要だ。そういうプログラムが作れるから実行できたから相手の迷惑が関係ないとはならない。
  • (果たしてどこからが問題なるかわからないのは大変に不安だ、との問いに対して)例えば30000回のアクセスは駄目だったから、では29999回ならいいのかとはならない。0か1かで判断しているわけではない。被害者のいる事案であり様々な状況を考慮して対応している。

以上でしょうか。
恐らくは別に捜査機関全体の意見を代表しているわけではないことに注意。但し現場ではどのような考え方で発想されているのかの参考にはなるかと思います。
僕は果たして警察はどのような発想・考え方で動いていたかに興味があったのと、事件の捜査過程については「関係者からの問い合わせではないので」と拒否されたので、不満の残る箇所もあろうかと思います。
特に「故意」の部分については突っ込んで聞きたかったのですが、具体的な過程は明白に出来ないのでしょう、はぐらかされた感はあります。

最後に、もし似たようなプログラムを予定していて不安があるのなら、警視庁のサイバー犯罪担当へ問い合わせて確認した方がよいとアドバイスがありました。愛知県警を含め各県警が警視庁の判断や事例に従うから、とのことです。県警として答えられるのはこれまで担当した事案に対して同じ状況であれば逮捕します、としか答えられないとのこと。

ここではまずは聞き取り結果としてのみ公表するにとどめます。
何かの参考になれば幸いです。