2013-09
11
20:04:30
ドコモのiPhone販売開始は真の料金プラン競争へ向かわせられるだろうか


既報の通り、ドコモが正式にiPhone 5s/5cを取り扱うことが発表された。
特に注目したいのはこのことが日本で初めての「三大キャリアが全く同じ機種を同じように販売する」ケースになる、ということだ。
これまでも確かに同じメーカーの同じベースモデルの機種が発売されたことはあるものの、アップルのiPhoneのようにどのキャリアにも全く同じ条件・環境での販売をさせるケースは初めてだ。実際にはiPhoneでも国や対応周波数などで微妙に異なるモデル(SKU)をキャリア毎に投入することはあるのだが、今回の場合は5sだと全キャリアでA1453という同じモデルらしいと噂されている。

端末が全く同じだと言うことになると、当然消費者がどのキャリアを選ぶか、またはキャリアがどのような差別化や訴求をしてくるかは、まずはネットワーク性能であり、そしてそれでダメだとなれば次に「料金プラン」ということになるだろう。
個人的には実はこの「料金プラン競争」にこそ注目している。それは「各社が全く同じiPhoneを販売せざるを得ない状況」で「本当の意味での料金プラン競争」が起きてくれるのでないかと願っているからだ。

月々サポート/毎月割/月月割が料金プランを変えてしまった

どういう意味か説明する前に、簡単に各社によって呼び方は異なるが、月々サポート(ドコモ)/毎月割(au)/月月割(ソフトバンク)についてまず述べたい。
皆さんも携帯を買う際には必ず一度は聞いたことがあるだろう。元々は携帯業界へ参入することになったソフトバンクが「スーパーボーナス」の名で始めた料金施策で、2年間なりの契約継続を前提に毎月一定額を「月額料金」から割り引いていくという施策である。簡単に言うとそうなのだが、実はそうことは単純では無い。
少しイメージを持って頂くために、以下のこれまでのiPhone5(16G / MNP)支払いイメージ表を見て欲しい。対照的にドコモではXperia Aでの支払いイメージも加えた。

キャリア ソフトバンク KDDI NTTドコモ(参考)
機種代金 iPhone5 16G iPhone5 16G Xperia(TM) A SO-04E
¥51,360 ¥51,360 ¥78,120
基本料金 ホワイトプラン LTEプラン タイプXi にねん
¥980 ¥980 ¥780
インターネットプロバイダー料金 S!ベーシックパック(i) LTE NET spモード
¥315 ¥315 ¥315
データ定額 パケットし放題フラット
for 4G LTE
LTEフラットスタート割(i) Xiパケ・ホーダイ フラット
¥5,460 ¥5,460 ¥5,985
MNP割引 バンバンのりかえ割 auにかえる割 お乗りかえXiスマホ割
¥-980 ¥-980 ¥-780
月額合計 ¥5,775 ¥5,775 ¥6,300
月々サポート・毎月割・月月割 ¥-2,140 ¥-2,140 ¥-3,255
差し引き月額料金 ¥3,635 ¥3,635 ¥3,045
2年総額(概算) ¥142,880 ¥138,600 ¥151,200
備考 機種代金は一括払いとした 機種代金は一括払いとした 機種代金は一括払いとした
パケットし放題フラット
for 4G LTE はテザリングオプション(\525/月は2年間無料)
LTEフラットスタート割(i)は2年間適用、以降は\5980 パケット定額をXiパケ・ホーダイ ライト(3G制限)にすれば\4935/月
月月割は当初2ケ月は適用されない au スマートバリューは考慮していない
* 2013/09/11 現在

まず注目したいのは、ソフトバンクとauの横並び感だ。一時は端末価格も1万円ほどauの方が高かったのだがそれも全く同額になってしまった。なお月額支払料金も全く同じなのに2年総額ではソフトバンクの方が高いのは、ソフトバンクの月月割は購入して二ヶ月経たないと値引きが始まらないことを考慮したためだ。

この談合では無いかと疑わせそうな横並び感だけでも「本当の意味での料金プラン競争」の意味は感じ取ってもらえそうだが、日本でのこれら料金プランにはもう一つ大きな問題がある。それが月々サポート/毎月割/月月割である。
この「月額割引」は実は購入する機種によって全く異なる。例えば店頭で「この機種なら実質0円です」と言われたことがあるだろう。「実質0円」とはなんだろう。
上記表で説明すれば、例えば端末代金は¥51,360で月額割引では毎月¥2,140値引くので二年間継続して使うなら最終的には端末価格は0円になることを指している。しかし購入時点では一括で¥51,360支払うか若しくは割賦に申し込まないといけないのがミソで、故に「実質」なのである。そして当然2年に満たない期間で解約すると残りの割引は放棄することになるので「実質0円」では無くなる。そうした「途中解約すると損をする」ことを担保にして少なくとも二年間引き留めようという施策なのである。

もう一点、この「月額割引」には大事なポイントがある。それは「あくまで月額料金からの値引き」であり「端末代金の値引き」では無い点だ。
不思議に思われる方も多いだろう。経緯を説明すると、以前街中では「0円携帯」というのが大いに流行ったことがある。しかしその端末値引きは結局は利用者の料金が原資であるのでフェアでは無いという理由で2007年に総務省が待ったをかけたのだ。
そこで端末代金は端末代金、月額料金は月額料金という分離を各キャリアは行ったのだが、そこでこの「月額割引」を編み出したのが携帯業界に参入してきたソフトバンクだった。今となっては恐ろしく消費者へ価格を大変お得に見せかけられる「魔法のような施策」で、当時の副社長がソフトバンクへの入社を決めたのもこの施策を聞いて「必ず成功する」と確信したからなのだという。
当初この施策を批判していたドコモもauもいつの間にか月々サポート/毎月割の名で導入し、現在では「原則2年契約」「購入端末に応じた月額割引」は当たり前になっている。
月額割引が「あくまで月額料金の割引」とされているのも端末の割引とすると0円携帯と同じことであり総務省通達に違反してしまうためだ。しかし本質的にそうした通達は有名無実化しており、そもそも端末によって割引額が変わる時点で実質的には「端末割引」なのはよく分かることと思う。

月々サポート/毎月割/月月割の真実の意味

しかし問題はこの「月々サポート/毎月割/月月割」は体のいい「見せかけの料金プラン」と「キャリアでの自由な料金(収入)の調整」に貢献していることだ。
まず「見せかけの料金プラン」について、例えば皆さんはお使いのiPhoneの月額での支払額は幾らですかと聞かれたら幾らだと答えるだろうか。
上記の表で言えば「差し引き月額料金」の例えば¥3,635の方では無いか。少なくとも¥5,460とは答えないのでは無いか。しかし考えて欲しい。「月々サポート/毎月割/月月割」は何を値引いているのか。月額料金と考えるのも自由だ。その場合は¥3,635でも構わない。しかしその場合は別に端末代金はしっかり¥51,360支払っており一切値引かれることは無いのだ。
「月々サポート/毎月割/月月割」が端末割引だと考えれば、皆さんは全員例外無く確実に月額で¥5,460しっかりと払っているのである。そこに何ら(キャンペーンなどは除いて)月額割引は無い。つまりこの「見せかけの料金プラン」をWEBでの見積もりや店頭で提示できてしまい、「割安な誤ったイメージ」を植え付けられてしまうのが、まず問題である。逆に言えばだからこそ購入時の心情的敷居が低くなり売上に貢献するとも言える。

もう一点、表からは気付くことがある。それは「端末代金が高ければ高いほど月額割引も高くできるため、見かけ上の月額料金が安く見える」ということだ。
ソフトバンクとauの「差し引き月額料金」は¥3,635に対して、機種代金が3万円ほど高いドコモ Xperia Aでは¥3,045と逆に安くなっている。もうお気づきだろう。月々サポート額をそれだけ高く設定しているからでこれは見かけに過ぎない。本来の月額合計は¥6,300とiPhoneに比べて高く、また2年総額でもそれだけ高くなる。当たり前のことである。
しかし気付けるのは「端末価格を高くできればできるほど月額料金を安く見せかける」ことができる可能性がある、と言うことだ。
果たして、これは何という矛盾であり虚構であろうか。

次に「キャリアでの自由な料金(収入)の調整」だ。
先に説明したように「月々サポート/毎月割/月月割」は端末ごとに異なる。原則的には端末価格によって、例えばその1/24を月々の割引価格とすることで実質0円にも出来るし、あるいは販売計画に沿って端末ごとの割引を調整することで全体としての料金を自由に決定・調整できていることを意味する。そして計画を達成すればこの割引額を変えてしまえばいいのである。
これは商売としては何とも楽で羨ましい、販売側には全くリスクの無い価格決定方法である。そこには他の業界のような価格変更に対する真剣な覚悟は必要ないし、例えば見込みの甘かった値上げによるマーケットによる大いなるしっぺ返しも無い。実質的な値上げだろうが、売れないので一時的に値下げしてある程度達成したら元に戻すと言うことも極端な話、まるで問題無く行えてしまうのである。
何故なら「月々サポート/毎月割/月月割」はあくまで端末ごとのキャンペーンのような位置付けでしか無く、キャリアは実は本当の料金プランには全く手を付けていないからだ。

日本では「料金プラン競争」は全く起きていない

「月々サポート/毎月割/月月割」などの月額割引だけでは無い。表で言えばMNP割引やテザリングオプションの割引など、「やけに割引だらけだよな」と感じたことは無いだろうか。
その通りなのだ。日本の携帯業界において料金を決めているのはこれら「割引キャンペーン」ばかりだ。そして先ほど述べたようにそれはキャリアの都合でいつでも変更できる。それは値上げでも値下げでも利用者にそうとは気付かれず自由に変更できることも意味する。
一方で例えば基本料金やISP代、データ定額料金はどうか。まさしくこれらこそが「本来の料金プラン」であるはずだが、これらが「値下げされた」と聞いたことはあるだろうか。
基本料金についてはガラケーの時代から2年契約前提で980円のままだし(ドコモだけはLTEで780円にしたが)、データ定額料金は3Gでは横並びで¥4,410の時もあったがLTEに移行したタイミングで各社¥5,985に値上げしてしまった。
つまり横を見ながらの割引競争は多少あっても、企業価値をかけた料金プラン変更や競争は全く行われていないのが実情なのだ。

iPhoneの横並び販売が現状を打破できるか

長々と述べてきたが、「月々サポート/毎月割/月月割」とは如何に欺瞞か、キャリアは何とも巧妙にガチの競争を避けてきたか、そして我々は常に目眩ましを受け続けてきたかわかってもらえただろうか。

僕は「月々サポート/毎月割/月月割」といった月額割引施策は早急に廃止すべきだと思っている。少なくとも「月額料金からの割引」とすることと「端末ごとに異なった割引」を行うことは反対である。2年契約を担保したいなら海外のように最初から2年契約時の端末価格を設定すべきだし月額料金はキャンペーンなどでは無くきちんとプランを複数用意して各社間の競争を行うべきだ。
何より利用者に対して自身が一体本当は幾ら支払っているのか、見せかけなどでは無くはっきりと可視化して自覚できる料金プランや支払い方法を用意することこそがキャリアの最低限の努めであろう。

そしてiPhoneの全社取り扱い開始のニュースである。
こうした現状を前提にしてほのかに僕が期待したのは、自然結局は各社料金での競争に陥るだろうと思ったからだ。
よく言われるとおり、iPhoneを取り扱うと言うことは紛れもなく「土管屋」としての競争を意味する。しかしネットワーク性能の優位性などが訴求できるのはせいぜい一部のマニアだけだろう。多くはせいぜい性能への「イメージ」と、そして結局は価格勝負なのでは無いか。
これまでは価格勝負と言うことになると販売奨励金を原資にしたキャッシュバックが主流だった。またはMNP施策が中心だったとも言えるだろう。
だが「全社が全く同じ機種」を扱うのであれば販売奨励金もキャッシュバックもMNP施策も全く同じものにならざるを得ない。でなければ他社に差別化されてしまうからだ。しかしそれではやはり自社が差別化できないというジレンマに陥ることになる。これが「土管屋商売」ということだ。

それを打破できる方策は何だろうか。
それ故の料金プランでの「本当の意味の競争」である。
例えば一部ドコモが始めているようなデータ定額のライトプラン(3GBまでの利用であれば安く済むなど)や複数の無料通話付きプランの復活などだ。つまり画一化した利用者像では無く、利用者のペルソナに応じたニーズの抽出と条件付きでの低価格プランの創出である。例えば利用者毎の利用スタイルに応じた料金プランの提案である。そうした「土管屋故の」プランこそが今後は勝負を決めていくのでは無いだろうか。
ARPUをある程度犠牲にしても「土管屋」として選んでもらわざる得ない時代がすぐそこまで来ているのでは無いか。そしてそれは「月々サポート/毎月割/月月割」などと言った「キャリア主導マーケット時代の遺物」を吹き飛ばしてくれるのでは無いか。

こうした意味において、僕はドコモのiPhone参入を歓迎している。否応の無い「土管化」が「消費者主導マーケット」を取り戻すことを期待している。
2007年、iPhoneの登場はスマホの市場を開拓したが、それは自由な「データ定額接続」とキャリアによって大差の無い常時接続環境をユーザーにもたらしたとも言える。
2013年、今度のiPhoneの登場はネットワークの土管化を促し消費者の自由な主導権をもたらすかも知れない。それは何よりiPhoneなしではなしえなかったかも知れない。何故なら日本市場とは常に「外圧によってのみ」変化し続けてきたからであり、今回もまたその例外では無かろうと思うのである。

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