iモードが世界制覇できなかった本当の理由
事実を正しく指摘してはいるけど、「本当の理由」ではないと思う。
「事実は正しく指摘」しようよ。
結論は、元の中島氏の結論も含めて携帯関係クラスタやらそうした関連記事ではさんざん出ている指摘なので特に異議もないのだけど、その「前振り部分」の事実誤認なのか無知なのか分からないが、事実無根の記述がこんなに短いエントリーなのに三つ(数え方により四つ)もあるよ。
はてブとか読む限り、勘のいい人たちは「何かおかしくね?」とちゃんと気付いてるみたいだけど、言葉のまま信じ切っている人も多いみたいなので、きちんと添削しておく。
ガラケー端末も遙か昔からTCP/IPぐらいサポートしている
WAP1.0の前世紀ならいざ知らず、少なくともiモードはその登場時からTCP/IPベースの携帯端末だった。 小飼氏が言っているのはその10年も昔のWAP1.0と取り違えたような話だ。
というよりWAP1.0のプロトコル・ゲートウェイ的なダサイ実装が嫌だったのでそもそも独自にiモードをTCP/IPベースにして開発した、というのは有名な話だ。
この端末からゲートウェイからもちろん外部のインターネットまで通信層をTCP/IPでデザインするというというアーキテクトはその後のWAP2.0へそのまま踏襲された(つまり現在世界的に見ても『IPアドレスが割り振られない』携帯端末はまず存在しない)。
そもそもガラケーでも問題なくSSLが出来ている(完全なピア・ツー・ピアという意味)時点でTCP/IPをサポートできていないはずが 無いのだが。
なおこれはEZWebやYahoo!ケータイでも(初期にはWAP1.0な時代があったかも知れないが、そこの歴史は僕には分からない。識者の教示を求む)同じことだ。
参考: WAP2.0で何が変わったのか
別にiPhoneだからと言って「グローバルIP」とは限らない
あいまいな論の文章なので判断しにくいのだけど、小飼氏の論やツイートを見ると「iPhoneにはグローバルIPが振られ、外部からも自由にアクセスされ得る」から「終端として主導権を握れる」のが他の端末との大きな違いとなった、とも読める。つまりグローバルIPを自由に使える点が重要だったという意味だろうか(正直こうしてまとめていても僕にはよく分からない)。
仮にそうだとして、日本ではソフトバンクのいわゆる「panda-world.ne.jp」と呼ばれる「iPhone専用網」でサービスされておりここではグローバルIPが割り振られる。IPがグローバルかプライベートかは通常は分からないが、JailBreakしていれば自機のIPが把握できるアプリもある。
しかし世界的にはそんなキャリアだけではない。
例えばこちらの資料をみれば一目瞭然だ。世界的にはグローバルIPを使用するキャリア、 プライベートIPを使用するキャリア(つまりキャリアグレードNATを導入しているキャリア)が混在している。
APN Settings for iPhone 3G | The iPhone User Guide
これらの国ではiPhoneの他の機種に対する魅力は無いのだろうか。ノキアは悠々自適なビジネス環境を生きているか。そんなことは無い。
更に言えば、そもそもスマートフォン網だのガラケー網などと分かれている(アクセスポイントが分けられている)国の方が珍しいので、従来の携帯端末でもグローバルIPが割り振られる場合も同様にある。
「日本のガラパゴス現象」を主題にしているのは理解しているが、しかしその論では「海外においてもiPhoneがスマート」になっている理由付けにはならないだろう。
論理的帰結として、iPhoneはまたはスマートフォンとはそうした「外的要因」からは分離されたところにその存在意義や魅力があると考えるべきだろう。
なお僕には詳細は分からないのだが、「そもそもiモードにも外部接続を受け付ける仕組みはあるよ?」という指摘もある。
定額データ料金はiPhone以前からずっと存在している
これまたあいまいな文章なので判断しにくいが、「iPhoneは定額データ(=常時接続)が無ければこれほど浸透しなかった」は自明としても「定額データを導入したからiPhoneが浸透した」なら成り立たない。既に多くの人が理解するようにiPhone以前の何年も前からガラケーで定額データは一般的だったからだ。
今に始まった経緯では無いのだから「iPhone『だけ』を特別なものにした」論の論拠としては甚だ疑問だし、では何故ガラケー(やその他従来端末)がiPhoneになれなかったかの論としては成り立っていない。
ガラケーがiPhoneになれなかった訳もしくはキャリアがiPhoneを企画できなかった理由
このブログでは、あるいはTwitterでも散々ツイートしているし長くなる話なのでかなり簡単にまとめるが、僕自身は「肝」はいわゆる固有端末ID(uid, X-UP-SUBNO、X-JPHONE-UIDなど)をベースにしたモバイルECが想像以上に成功しそれ以外の方向性に舵を切る必然性がキャリア・メーカーともに無くなったからだと思っている。つまり「イノベーションのジレンマ」かも知れないし、中島・小飼両氏の「結論」も別に異議はない。それ故にキャリアはメーカーを飼い慣らす(実は飼い慣らしたかったのはユーザーだろうが)必要があったしメイドにもならざるを得なかった(つまり両氏の「結論」は「結果論」)、というのが本質論だと思っている。
もし興味があるのなら以下の以前のエントリーも参照して欲しい。
日本のケータイWEBはどうしてこんな仕様になったのか
結局SIMロック論議もオープンプラットフォーム構想も端末IDの話に尽きるのかも知れないなぁ
Appleは本当に垂直統合なのか – 日本の携帯キャリアとの違い
ガラケー機能は須くクラウドを目指せ
ともあれ。エンジニアたる者、事実に立脚せず思い込みだけで論陣を張るなど以ての外だし、知らないことは知らないでよいのではないか。その上で知りたいのなら(議論したいのなら)きちんと新たに学べばいいだけだ。これはネットだけでなくリアルにおいても「技術屋」としては最低限の矜持である。
ROCA, the mere engineer.